ベ　　ラ　　　　　　　　　　　　　　　　　　

ベラ釣り（船釣り）の際は、缶ビールを持参する。弁当忘れても缶ビールは忘れない。仲間ＡＢＣと互いに持参分を見せ合って、これだけあれば惜しげなく飲めると、まずは幸先を祝い出港前に一缶プシュ。夏の海、カンカン照りのなか、冷えた缶ビールのうまさは格別である。竿を片手にプシュンプシュン。何のことはない、缶ビールを魚(さかな)（肴）に魚釣りだ。　　　　　　　　　

瀬戸内では、真夏のベラ釣りから船釣りを覚える人が多い。ベラ釣りの面白さに味をしめて、誘われるままにキス釣りへ、ガシラ釣り、カレイ釣りへとすすむ。

アジ、イサギ、タイ、等々へとのめり込む間、いつの間にか日焼け顔の釣り師ができあがる。気がつくとかみさんがサシミ造りのうでを上げている。台所の薄っぺらな白いボードが、大きな木製まな板に変身していたら、きっとそれに似合う出刃と刺し身包丁もあるだろう。洗面場の隅あたりに研ぎ石があって、釣り行きの前夜、食後の一杯機嫌のまま、夢みる目つきで出刃を研ぐ自分を見つけたら、すでに釣り病が膏肓(こうもう)に入りつつある。少し自制した方がよい。趣味が道楽になり、家業が傾きつつある。今や初心に帰り、ベラ釣りの楽しさを思い出すべきである。

　

ベラは強い陽射しのもとで仲間と賑やかに釣るのが楽しい。赤ベラと青ベラがある。雌と雄だ。赤ベラの一部が成長過程で雌雄転換し青ベラになる。本名をキュウセンベラ。赤ベラの体の九本の縦縞が名の由来。白身で上品な味。素焼きし二杯酢につけて食う。

美味。夏の味。